紐靴用では代用できない。ローファーには ”専用シューツリー” を選ぶべき理由

お気に入りのローファーを脱ぎ、1日の終わりにシューツリー(木型)をそっと滑り込ませる。靴好きにとって、それは大切な相棒を労わる至福の儀式のようなものです。しかし同時に、紐のないローファーは、靴のお手入れにおいて少しばかりデリケートな存在でもあります。

私は、ローファーには絶対に「ローファー専用」のシューツリーを使うべきだと考えています。なぜなら、ローファーは紐靴に比べて、足の甲にあたる部分が格段に低く作られているからです。ここに一般的な紐靴用のツリーを無理に押し込んでしまうと、甲の革が内側から不自然に押し上げられてしまいます。そうなると、見た目の美しさが損なわれるだけでなく、革が伸びてしまい、次に履いたときにブカブカと緩くなってしまう原因にもなるのです。


名作の影を追う。ブリガのシューツリーが体現する英国の最大公約数

そんなローファーの型崩れを防ぐために、私たちがお店で扱い始めてから、私自身もずっと愛用しているのが、ブリガ/シュートゥリー ローファータイプです。


ブリガ シューツリー ローファー

実はこのツリー、メーカー側も「英国老舗シューメーカーの名作ローファーのフォルムを元にしている」と公式に謳っています。最初に担当者さんからその話を伺ったとき、私はとても興奮したのを覚えています。しかし、一体どの靴がベースなのか、そこから先がどうしても教えてもらえなかったのです。「具体的にどこのブランドの、どのモデルなんですか?」と私が直接しつこいくらいに尋ねても、担当者さんは苦笑いするばかり。大人の事情もあるのでしょう、肝心の正体だけは最後まで明かしてくれませんでした。

名作ローファーの遺伝子。しかし、その正体は謎。だからこそ、シダーの木肌が描く美しい立体感をじっくりと眺めていると、靴を愛する人々の間で囁かれる「あの名作たち」のシルエットが、自ずと浮かび上がってきます。ここでは、ベースになったと目される3つの傑作について、少し紐解いてみましょう。


分析1:日本人の足にも馴染む、現代の傑作タッセルローファー

まず最も有力な候補として呼び声が高いのが、英国の老舗ブランド、クロケット&ジョーンズ(Crockett & Jones)の「キャベンディッシュ」というモデルです。

ブリガのツリーは、甲の部分を低く抑えつつも、かかと周りは少し小さめに、そして土踏まずのあたりがキュッと綺麗に絞り込まれています。これはまさに、キャベンディッシュが持つ「イギリス靴らしい端正な美しさと、日本人の足にも吸い付くような抜群のフィット感」を驚くほど連想させます。あらゆるローファーに合う万能なツリーを目指す上で、この現代の傑作を参考に形を作っていったというのは、極めて自然なことのように思えます。

分析2:最高峰ブランドが誇る、低く美しいコインローファー

もうひとつ、このツリーの特徴である「低く、それでいて立体的に立ち上がる甲のライン」を見て思い出すのが、世界最高峰の革靴ブランド、ジョンロブ(John Lobb)の「ロペス」です。

ロペスという靴は、甲の高さがやや低めに抑えられており、つま先にかけて流れるような、独特の平たい傾斜を持っています。ブリガのツリーが、甲の革を面でピタッと押さえるような低い設計になっているのは、まさにロペスのような「贅沢でスマートな低甲」をきれいに維持するために計算されたのではないか、と感じるのです。

分析3:足を包み込む、タイトで色気のあるシルエット

さらにマニアックな視点を向けるなら、やはり英国の憧れの老舗、エドワードグリーン(Edward Green)の「デューク」というローファーの影も無視できません。

エドワードグリーンの木型は、驚くほど甲が低く、足全体をピタッと包み込むようなスマートさが特徴です。ブリガのツリーを真上から眺めたときの、すっきりとした輪郭やメリハリのある曲線美には、グリーンの靴が持つ「色気のあるタイトさ」がどこか息づいているようにも見えてきます。

ブリガシューツリー ローファータイプ

結論として行き着く、豊かな「匿名性」

いくつかの仮説を立ててみましたが、私の結論はこうです。このシューツリーは、特定のどれか1足の完全なコピー(真似)ではありません。きっと、クロケットやジョンロブ、エドワードグリーンといった、イギリスの老舗たちが長い歴史の中で磨き上げてきた「名作ローファーの共通の美しさ(最大公約数)」を研究し、そのエッセンスをぎゅっと凝縮したものなのだと思います。

だからこそ、特定の靴専用として作られたわけではないのに、手持ちのローファーに入れた瞬間に、まるで最初から誂えたかのようにしっくりと馴染んでくれるのです。

あえて名前を伏せることで、世界中のあらゆるローファーを美しく、そして型崩れから守る普遍性を手に入れた...。そう考えると、毎晩お気に入りの靴にこのツリーを差し込む時間が、少しだけ贅沢で、ワクワクするミステリーのように思えてきませんか。




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